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アハ体験をする

昨夜、ふと浮かんだ言葉が、ふと浮かんだ瞬間に思い出せなくなり、そのまま、どうしても蘇ってこないので、布団のなかでなんども寝返りを打つことになってしまった。よし、気を落ち着けよう、と、起き上がって、台所で白湯を飲み、戻ると、ペンと紙片を持って、またベッドに潜った。この際、思い出すまで眠るのはやめることにした。同僚が、よく言っていた「アハ体験を重ねて脳の活性化」という言葉が、消えてしまった言葉の代わりに、これ見よがしに頭のなかをぐるぐるし始めたからだ。

最近、確かに物忘れはひどくなった。一瞬浮かんで、一瞬で消える、という切なすぎる迷宮体験も増えた。消失に任せることなく、脳のシナプスにエールを送らなければならない。アハ体験、アハ体験。

結果的に、忘れた言葉はひょっこり「父帰る」みたいに戻ってきたのだけれど、そこに至るまでに頭に浮かんだ似て非なる言葉たちの面白かったこと。試しにメモしておいたので、それを読んで我ながら楽しい時間を過ごした。ボケとツッコミをひとりでやるようなものだ。思い出そうとするときに、頼りにするのは、語感であったり、わずかに消え残っているように思える文字だったりするが、自分で変にまとめようとせずに、本当に思いついたままの言葉を書き留めたせいで、よくもまぁ、そんな、という「程遠い」言葉まで出動しているのがわかる。

認知症の母が、時折、ぷっと吹き出したくなるような、意味不明の言葉を投げかけてくるのは、ある意味、この「途上の言葉」で、取り急ぎお茶を濁しているからなのかもしれない。正確な言葉を思い出せないうちは、会話ができないとしたら、そんな苦しいこともなく、だったら、とりあえず、なんでもしゃべってしまえ、と、無意識のうちに思うのかもしれない。

でも、そんなことを考えていると、使い古された言い回しを、飽くことなく繰り返して、流暢に喋り、流暢に暮らすことが、本当に、自分の言い回しで、自分のスタイルなのかと、疑わしくもなってくるのだ。

ど忘れしてしまった事柄を思い出すアハ体験とは別に、ど忘れどころか、実はまだ一度も思い出せていない自分の言葉があるのではないか。その言葉で、まだ一度も喋っていないのではないか。それこそが核心であるにもかかわらず。

とにかく、昨夜、ど忘れした言葉はめでたく思い出すことができた。
思い出せた途端、安心してすぐ眠りに落ちてしまった。




by kokoro-usasan | 2017-02-23 23:04 | 日々


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