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娑婆梅雨

a)
過日、仕事でお会いした女性の目が、いただいた名刺からしても忖度する理由は何もないはずなのだが、深い深い闇を潜ませているように思え、心から去らない。名刺にもう一度目を通す。そこに記されている仕事に長年携わってきた人のようにはどうも思えない。では、どんな仕事の人だというのか・・・。もうちょっとのところで、
「それ」と出てきそうなのに浮かばず、同僚に、「なにか不思議な雰囲気のかたでしたね」とつぶやくと、同僚は、あまり関心がなかったのか、「地味な?」と問い返すだけで、自分の仕事にすぐ視線を戻した。

b)
きのうは休日で、どうも気分が沈みがちだったので、ぼんやりしていた。すると、また、その暗い目の女性の顔が頭に浮かんだ。彼女が抱えていた大きな黒い鞄のことも蘇った。そして、はっとした。そうだ、あの目は、裁判所や、警察や、なにか、ひとを調べ上げ、判断を下し、或いは裁く側にいるひとたちの目なのだと思った。そんなはずはない。彼女の職種はそんな仕事ではない。だが、人間には、「前職」というものもある。だとしても、そういう前職の人間に出会ったからといって、わたしが、沈鬱な気持ちになる必要などないではないか。それでも、折悪しく、わたしは、その後「教誨師」という堀川惠子さんの著作を読み始めてしまったのだ。死刑囚とその刑の執行にまつわるノンフィクションの労作を読み進めば進むほど、何故か、あの女性の目が蘇ってくる。法による処罰、刑期、処刑・・・。人が、あばかれて、そして、裁かれるということ。

c)
「教誨師」のあとがきに、龍谷大学法科大学院で刑事法を教えるとともに、弁護士でもある石塚伸一さんという方が、こんなことを書かれている。<龍谷大学に赴任して15年。最近、「人間は、背負っていた、いや、背負いきれなかった荷物を降ろして逝く。手渡されたことに気づいた人は、悪人になる」と思うようになりました。>
石塚さんも解説しておられるが、法では、「善意」とは「知らないこと」であり、「悪意」とは、「知っていること」を意味している。<法の世界においても「悪意は知ること。善意とは知らざること。自らの罪業に気づかぬ人は善人。己の罪深さを知りながら懸命に生きるのが悪人」。だから、「善人正機す。いはんや悪人をや」ということになります>

d)
それでも、わたしは怖いのだ。「死刑をみんなで見にゆこう」と、記者会見で口にして、「馬鹿も休み休み言え!」と記者にたしなめられた法務大臣も存在するのが、この日本という国のようだ。今のマスコミで、「馬鹿も休み休み言え!」とその場で一喝できるような人間はいるのだろうか。ひょっとすると、お追従のような薄ら笑いの声すら漏れるのが今の現状ではないだろうか。

呆れた善人を為政者に持つということの悲劇を思う。そして、他者が降ろした深い苦悩の荷物を手渡されたことに気づきながら、その自分の悪人性のようなものに蓋をし、「善人政治」に加担してゆく人が増えてゆくとき、ファッショが蔦葉をひろげる。
by kokoro-usasan | 2014-06-27 12:06 | つぶやき | Comments(2)
Commented by めざ at 2014-06-27 13:11 x
「善人政治」・・・総理大臣が最高司令官であるなら、一度は現場体験をすべきだと思う。特に今の人。非戦闘地域というところで最小限の防備で赴いた人々が体験したこと。それと同じようなことを体験すべきです。最高司令官全員という意味ではなく、そうした体験に思いをはせることができない人は体験しなければ分からないということで。日本が「戦争放棄」を掲げていることで、他国の人にはできない活動もできるといいます。外交的な平和維持・推進も、戦争と同等あるいはそれ以上の知力や駆け引きが必要と思います。それが分からんのかねぇ。「一生、腹痛で寝込んでろ」と思うこともありまする。
Commented by kokoro-usasan at 2014-06-27 23:31
一国の首相が、戦時でもないのに、パフォーマンスで軍服を着て笑顔でニッコリしてる写真が世界に配信されましたが、ああいうのを新聞は、ただ面白そうに報じるのではなく、やはり「前代未聞の失態」として厳しく糾弾していかなければならなかったのではないかと思います。上記のブログに書いた法務大臣は、田中伊三次という人で一ヶ月の間に27名の死刑執行命令を出した人物だそうです。その愚かな発言を「馬鹿も休み休み言え」と一蹴できた記者には、それ相応の「悪人力」があったのではないでしょうか。底辺の苦しみを知っている。今は、記者も「善人」が多いのかもしれませんね。ネット社会には、「情報」しかない。生身の自分、剥き身の自分で、どれだけの人間の闇を経験しているか、どれだけそういうものから逃げずに向き合ってきたか、「カジノで経済活性化」なんてふざけたことを言う政治家もいますが、なけなしの金をそういうものですってしまう低所得者があらわれたとき、彼なら、「身のほど知らずの馬鹿たち」と言って、一笑にふすであろうと想像できます。


閉じられていないもの


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