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草の葉の露

a)
6月になると沖縄を思い出す。初めて訪沖したのが6月だったせいもあるが、沖縄にまつわる様々な記憶が、何故か6月に集まっているのだ。知念さんにお会いして生の歌声を聴かせてもらったのも、11年前、2003年の6月23日のことだった。会った場所が沖縄でも東京でもなく札幌だったのが、お互い根無し草風で面白かった。23日は石狩の保健福祉センターりんくるで、25日には札幌郊外のナンディというインド料理の店で、知人が撮影した沖縄の基地問題に関するドキュメンタリー映画の上映会があり、ちょうど、北海道旅行を計画していたわたしは、上映会に招かれた知人に便乗するかたちで羽田から合流した。知念さんは、その前にすでに北海道入りしており、上映会のあと、ミニライブと称して弾き語りをしてくれた。

札幌の夜、知人と知念さんが沖縄の風土について語り合うのを、旨いホッケをつつきながら、わたしは聞いていた。札幌まで来て、呑み屋で沖縄談義かと思わないでもなかったが、それは、それゆえにこそ、なんだかとても不思議な感覚で、石狩の人が、普天間基地に関心を持ってくれていたり、札幌のひとが、沖縄の負担について深く考えようとしてくれていることへの有難さとともに、ひとは、どこまで、「想像」を膨らませることができるのかという問いをあらためて考えさせられる気がした。上映会のとき以外は、昼間それぞれほとんど別行動のわたしたちは、夜になると集まって、食事をし、夜更けにまた解散という三日間を過ごすと、知人は東京経由で名護へ帰り、知念さんは網走でのライブへ、わたしは、利尻・礼文に渡るため稚内へ向った。北海道にも自衛隊の駐屯地はあるのだが、金網を挟んで剥き出しともいえる形で存在する沖縄の「米軍基地」とはやはり本質的に周辺の空気が違うように思えた。戦闘による死が米軍の若い兵士たちにとっては、明日にもありうることであり、その恐怖と隣り合わせで生きるている。戦闘が憲法で認められていない日本の自衛隊員でさえ、普通の組織とは桁の違う年間自殺者を出していることを考えれば、それがどの国であろうと「殺戮」で結果を出すということの不条理を思わざるを得ない。



b)
愛しいクラリスはモンターグに言う。「夜明けになると、そこら一面、草の葉の露がたまるのを知っていて?」(レイ・ブラッドベリ「華氏451度」宇野利泰訳)為政者によって、余計なことは考えないように操作されている近未来の人類。本を読むことは禁止され、国家が流す情報だけを頭の先から爪の先まで押し込まれて生きている。本を燃やすことを仕事にしているモンターグはある雨の日に、禁断の言葉を臆することなく囁く少女クラリスに出会う。「あたし?17よ。でも、頭がすこし、おかしいの。あたしの伯父は、いつもこのふたつを、むすびつけて考えているようよ。年をきかれたら、かならず、こういえというの。17だけど、頭がおかしいんだって。」「夜中に散歩をするには、いまがいちばんいい季節だと思うわ。あたしって、ものをながめたり、においをかいだりするのが大好きなの。ときどき、夜どおし歩いて、朝の太陽がのぼるのを見ることだってあるわ」

c)
動物園は、雨の日にゆくのがいいですよ、という同僚のすすめに従って、小雨降る中、ひとりで動物園に向った。広大な「オランウータンの森」には、人間はおろか、オランウータンもおらず、ぼんやり東屋に座っていると、遠くでワライカワセミの声がした。くだんの沖縄の知人が以前、わたしが、話の途中で、「不在」になっている瞬間があることを指摘して、長いつきあいの中で、3回くらい、それに遭遇したが、あのとき、おまえは、どこに行っちゃってるんだろうなと笑ったことがある。それは本人も意識がないから、行っちゃっているときに、聞いてもらわないと、判らないです、と答えたのだが、動物園の動物たちを見ていると、かなりの確率で、「行っちゃってる」のがいるじゃないかと思い、へへへと思う。人間のいない動物園はとても楽しかった。
by kokoro-usasan | 2014-06-23 09:35 | 日々 | Comments(2)
Commented at 2014-06-25 18:45 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kokoro-usasan at 2014-06-27 23:37
知念さん、鍵コメさんのこと、気にかけておられましたよ。
あのひと、大丈夫なのかなぁって。
なにか、感じるところがあったのだろうと思うのです。
北海道と沖縄、遠く離れていますが、そんな知念さんのことを
鍵コメさんが時々思い出して、励みにしてくれるといいなって
思っています。


閉じられていないもの


by kokoro-usasan

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