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堆積層が見えたなら。

a)
6月28日毎日新聞朝刊に掲載された「開かれた新聞」委員会の6月度月例報告は、先月5月30日付の朝刊社会面に掲載されたある記事に関するものだった。この記事は、内容からいって、社説面でもいいのではないかと思えるものなのだが、ちょうどエベレストに史上最高齢で登頂した三浦雄一郎さんの記事と、「水道の蛇口97個盗まれる」という事件記事に挟まれなにやら窮屈そうにしており、気の毒でちょっと苦笑してしまったものだった。

だが、わたしはこの記事を非常に印象深く覚えている。それは、大阪市長であり日本維新の会の共同代表でもある橋本氏が、さる5月13日毎日新聞の取材に答えてした自らの従軍慰安婦問題の発言をめぐり、その報道を、みずからの真意を曲解した「大誤報」だと主張したこと対する毎日新聞大阪本社編集局からの反論記事(編集局長 若菜英晴)だった。「誤報」を流したと非難された報道側が、その真偽を判断した上でそれにきちんと反論することは、誤報と主張した人間が、国の政治に関わる人物である以上、国民への説明責任としても必要なことだろう。

今回の月例報告では、反論を掲載するまでに半月も要しており、展開が緩かったのではという池上彰氏の厳しい指摘があった。これに対し、もっと早く反論を展開するという選択肢もあったが、「論点をずらされた論争や挑発に乗らずに、事実に基づき冷静に反論」したかったと述べた編集局長の意見をここは支持したいと思う。わたしたち読者もあながち世間知らずではないので、これはどうもおかしいと思えば、自分で少しは考える。その時間を与えずに、性急な紙面論争になってしまえば、自ら考えることをせずに、論争のみを「高みの見物」するようになりがちだ。そのときに、狡猾な論敵にうまく論点をずらされてしまえば、自らの思考を働かせていない読者は、その流れに思考停止のまま流されていってしまうかもしれない。そのいい例が、現政府の答弁テクニックだろう。相手の反論の趣旨をすべからく脱臼させ、そのずらした論点に対する都合のいい答え(つまり相手側が糾した問題とは異なる論点へ自問自答する形に持ち込み、肯定的帰結へと導くすりかえ)によって、自らの得点にしている点があげられるかもしれない。 こうしたすりかえを可能にしているのは、実は今世紀に入り、あまりに政権が変わりすぎて、今ある厳しい現実が、どの党の、どの政権のときのダメージであるのか、現在の有権者、特に若者には、まったく混沌として不透明になってしまっているせいもあるだろう。現在という表層だけでなく、ここに至る堆積層にもよく踏み込んだ取材をしてもらえると、読者としては有り難い。人間は、忘れやすい生き物なのだ。残念ながら・・・。

b)
最近よく話題になる「ヘイトスピーチ」。わたしは記事で知るのみで実態を知らずにいるのだが、新聞に間歇的に連載されているー過熱する「憎悪」-という記事を注視している。特定の民族や人種への度を越えた誹謗中傷という憎悪表現が「愛国」という言葉のもとに激化している状況には、どこか仕組まれた臭いもして、釈然としない思いもある。今後の取材を待ちながら、自分なりに考えてみたいと思う。ただ、6月21日の記事で、一水会顧問の鈴木邦男氏の意見が取上げられていて、一水会自体も右翼団体であるわけだけれど、現在のヘイトスピーチの現状は、「愛国」とは似て非なるものとみなし、彼らの主張に共感する日本人はほとんどいないはずだと述べていた。喩えは違うかもしれないが、元自民党幹事長の古賀誠氏が共産党の機関紙「赤旗」で、安倍政権の打ち出した96条改正案に反対を表明した事態とどこか似ていると思った。

この鈴木氏への取材記事のなかで、おやと思ったのが、1998年に自殺した(とされている)新井将敬衆議院議員のことに言及している箇所だった。名前を目にして、そういえば、そういう政治家がいたと思い出したが、当時のことはあまり覚えていない。鈴木氏は、在日2世だった新井氏が、そのための陰湿なバッシングに耐えながら、それでも日本を愛し、「どうしたら日本人になれるのか」と真剣に考えていたと語っている。今回、この記事を読んで、新井議員が自殺にいたるまでの経緯のようなものを、少し調べていたのだが、とても考えさせられる記事を読んだ。
黄英治 「新井将敬代議士の孤独な自死」
http://www.eonet.ne.jp/~unikorea/031040/37e.html
新井氏がどのような政治家だったかはわたしには今判断できないが、この文章の中で取上げられている1983年の衆院選挙の際の、「黒いシール事件」については、新井氏のライバル陣営の恥ずべき手口に言葉を失った。こういう話も、時が経てば忘れられて、「なかったこと」のようになる。歴史認識以前の、日常的で為す術もない哀しい忘却を怖れる。
by kokoro-usasan | 2013-06-30 02:15 | きょうの新聞から | Comments(0)


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