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なみだふるはな

以前勤めていた法律事務所から「事務所ニュース」新年号が届いた。懐かしく思い出しながら読んでいると、先輩のSさんが、ちょっとシニカルで、でも実はとても義理人情に厚い人柄を彷彿とさせる短い一文を寄せていて、なんとなく心に残った。

 「26年前、分割民営化して、不採算を理由に次々とローカル線を廃止、人々の生活を
 断ち切ってきたJRが「人と人を結ぶ」などとコマーシャルで言っている。
 「絆」という言葉を多く耳にするこの1、2年だが、一方で自己の損得・利益を基準と
 して「自分」がすべてに優先する傾向もまだ強い。」

そうか・・・と思った。不採算ならば、絆も切れてしまうものなのか・・・と。だとしたら、それは、人と人だけでなく、国家と国民の関係でも同じことだろうか。様々な社会問題において、その最も困っているひとたちを置き去りにして、「見ない」もしくは「見えない」ようにしてしまう権力と富のやり口というものに思いが及ぶ。


なみだふるはな_e0182926_0361894.jpg
非人道的な企業管理と運営のはての破局。
その結果、
長年に渡って危機にさらされる普通の人々の生活と命。
まるで互いが申し合わせるかのように情報を隠蔽し、
さらに国民を危機に陥れようとする政府と企業。
そして罪なき動物の犠牲。
やがて、母なる海の汚染。
 「なみだふるはな」(石牟礼道子・藤原新也対談 2012)

「なみだふるはな」は福島原発事故と水俣病の闇を同根のものとしてとらえ、藤原さんが見てきた福島の状況を語るとともに、水俣病のかけがえのない語り部である石牟礼さんを迎え、この二つの災禍について、震災後間もない2011年6月に語り合ったものだ。上記引用文は、藤原新也さんが書いたこの本の冒頭のメッセージ。

この中にも唖然とするようなくだりがあった。それは藤原さんが内橋克人さんの著書から引用して語られたものなのだが、1983年、原発推進の講演会で、当時の敦賀市長が、町民を前に語り、拍手を持ってむかえられた話の内容だった。それはこうだ。、国から原発建設の見返りとして与えられる50億円で、短大をつくり、大学を作り、運動場を作り、火葬場も作れる。それはもうタナボタな町づくりができるのだから、自分は信念をもって、原発をおすすめしたい。たとえ、100年経って、片輪が生まれようが、50年後に生まれた子どもが全部片輪になろうが、それはわからないけれど、現段階ではやったほうがいいでしょう、という演説だった。それが、町民の拍手を持って受け入れられたという事実に、俯かざるを得ない。

でも、これはけっして過去の話ではないし、また他人の問題でもない。身体への影響はおろか、地球規模での壊滅が見越されていてもなおかつ、目先の快感を満たすことから抜け出せないというのは、ひとことでいって「病い」だ。脳の快感中枢を操作したせいで、死ぬまで恍惚として自慰を続けるモルモットのようだ。わたしたちは、どこまで、「発展」すればいいのだろうか。

かたや、石牟礼さんの言葉は、とてもいきいきと瑞々しい。もはや、なにかを糾弾するというよりも、自らが「美しいと思うもの」をしめやかに、しかしひるむことなく語ることで、それを蝕むものがおのずと見えてくるような境地。石牟礼さんが語る野の風景、人の風景、これらはみな過去のものとなってしまった。しかし、それを、石牟礼さんは、まるで今そこにあるかのような質感と湿度をともなった独特の言葉で再構築する。なにも強いことは言っていないのに、その微動だにしない魂で、蝕まれてゆくこの世の哀れを指し示されると、読み手は強い言葉で糾弾されるよりも、胸にしみる。

花や何 ひとそれぞれの 涙のしずくに洗われて 咲きいずるなり    道子

かつて水俣病公害訴訟で上京した患者さんが、水俣に関する社会の無関心をこんなふうに言葉にしたそうだ。「水俣は、日本の外になっとるにちがいなか。日本から見れば、水俣は行方不明になっとるにちがいなか。」このままでは沖縄も、そして、記憶に新しいはずの福島でさえ、実はもうかなり「行方不明」になりつつあるのではないかと危ぶむ。そこにいることがわかっているのに、その救い求めるひとたちを「行方不明」とする仕打ちのきわまりない残酷さよ。オトナが平気でこれを行うのに、子どものいじめを云々する資格は、果たして本当にあるのだろうか。

なみだふるはな_e0182926_1111239.jpg年が明けるのを待っていたかのように、咲き始めた庭の蝋梅。

ほのかな優しい香り。

闇の中でもそれは香り、わたしを立ちどまらせる。
by kokoro-usasan | 2013-01-09 06:33 | | Comments(0)


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