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滑走路

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羽田。

展望デッキ。

多分、いつも一番辛いときにくる場所。



でも、辛い顔はしていなかったはず。だって、癒えるために来るのだもの。まだ、さんさんと日の降り注ぐ、滑走路の向こうの海がきらきらと眩しい時間帯から、夕暮れに向かい、夜の帳が降りるまで、ずっと、ずっと、離陸する飛行機を見ている。こんなに好い場所に、なぜ、人があまりいないのだろう。空港内のショッピングモールには人があふれているのに。

そういえば、きのう、とても驚いた。ここにコメントを寄せてくださったことのある方がブログを持ってらっしゃるのを知って立ち寄らせていただいたら、姫野カオルコの「リアル・シンデレラ」を紹介されていた。昨夜、それをつらつら読んでいて、ギクリとしたのだ。七夕の日に自分が書いた願い事と、この物語の主人公の願い事が、ひょっとしたら同じなのではないかと思えてきたからだ。それは、たぶん、素敵なことだけれど、とても哀しいことにも思え、案の定、同じだったのを知って、茫然とした。

で、そんな願い事をする人間は、周囲の人には怖れられるのだともわかった。確かに心当たりもあると思った。そういう人間が生きてゆくためには、同じ場所に留まらず、場所を移してゆくしかないのではないかとわたしには思え、その場所が大事に思えるのであれば、きりのいいところで、その場所を去るという方法を取らないと、なにかが重く辛くなってゆくように感じられて仕方ないのだけれど、その物語も同じ結末を取ったので、尚更、ショックだった。自分の考えが正しいのを証明されたようで。

空港で、もう一度、そのお話を読み返した。もう、日が暮れていたけれど、デッキを吹き抜ける風は優しく、小指の先ほどもないきれいな緑色の虫が、わたしの文庫本の頁を行ったり来たりしてまるで遊びにきたかのように、離れなかった。わたしは、その虫が遊んでいる頁の英語の詩を朗読した。maryで始まるその歌を何度も何度も朗読した。デッキは離陸する飛行機の音で絶えず、騒々しかったから、わたしは誰憚ることなく、それを、唱えることができた。

願いが同じだっただけで、わたしはその物語の主人公でも、maryでもないのだったけれど、そんな願いは、血の通った人間としては本当は間違っているのではないか、と静かな哀しみにとらわれた。胡散臭いだけのことになってゆくのではないかと。人は神にはなれないというのに。
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それでも、空港の海風に吹かれて、なんとなく、気持ちも穏やかになり、帰りの電車で、同じ姫野さんの「風のささやき」という文庫本を読んだ。こちらは、神にはなれない人たちの、それゆえに愛しい風景がいくつも紹介されていて、なにはともあれ、わたしもまた、明日を生きてゆくのだろうと思った。
by kokoro-usasan | 2012-07-10 00:35 | 日々


閉じられていないもの


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