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水の星

もう光は早春を帯びているものだから、空は恥らうような薄青色に晴れ渡り、
一昨日降った雪が家々の屋根から時折思い出したようにドスンと落ちる音ではっと我に返る。
雪解け水の音、それは、どこをどう流れ消えてゆくのか。自分が溶けてゆくような錯覚。
どこまでも潤って、光に向って、伸びをする。豆の木のようにするすると空に手を伸ばし、
面白がってくねくねと身をたわませながら、春を遊ぶのだ。

そうやって、春がくるはずだった、去年も。

押し寄せてきたのは、雪解けの水ではなくて、
塩辛く、苦く、体ごと押し潰してゆくような瀑布のごときそれだった。
時に黒煙をあげる火さえも舌先に携えながら。


また、来るのだろうか。
また、それは来るのだろうか。

本当はとても怖い。身を縮ませて消え入りたいほどに怖い。

おかしなものではないか。きのう、同僚と話していた。
必ず、そういう目にあうのだと知っていながら、わたしたちは、その土地を動かない。
蛇に睨まれて動けなくなっている蛙のようでもあるけれど、それとも、やはり違う。

「ここで」生を繋ごうとすること。
災禍を想定していないのではない。本能は、災禍の悲劇など刷り込み済みで
それでも尚生き残る何パーセントかを、「この場所」でつなげてゆくことに賭けているかのようだ。

たとえ、平均寿命が50年縮まったとしても、30年の寿命のなかで、80年に匹敵することを
成し遂げえる知能を与えられた人類は、それゆえに、多くの悪どい詭計を測り、富に目のくらむ
醜態をさらしてきたけれど、もっと別の生き方を選ぶことができるなら、すこしでも善い本能だけで
この一年を生ききることだけを考えて暮らせるならば、災禍のあとに生き延びてくれる誰かに
なにか善いものを残せるだろうか。

死ぬのは怖いけれど、その最後の一日を、期せずして清らかな気持ちでいられたというなら、
それはそれで幸せなことだと考えてみようかと思う。そうであれたらいいと思う。
by kokoro-usasan | 2012-01-25 11:42 | 日々 | Comments(0)


閉じられていないもの


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