照片10
昨日はよく晴れて初夏の陽気。麻のズボンをはいて世田谷美術館へ。学生時代の友人に誘われて「白洲正子展」へ。最終日。入ってすぐのところで映し出されている那智の滝の大画面に見入る。ヴァーチャルなのに、清冽な水しぶきに心洗われる気持ちになる。洗われ過ぎてしまったせいか、そのまま、入り口から出てゆきそうになる。方向感覚がなくなってしまった。ふらふらと、入ってきたばかりの入り口から出てゆこうとするわたしを無言で眺めていた友人も、さすがに長い友人だけある。呼び止めもしない。笑。
大学の頃、小林秀雄ばかりを読み耽っていたわたしにとって、白洲正子もまた旧知の名前なのだけれど、今回の展覧会に出品されていた正子ゆかりの神仏像を眺めていると、なにか、イメージの中の正子とは異なる正子が浮かび上がってきて、すこし戸惑った。それはおそらく自分にとって意味のある混乱で、きっと、それは、自分が歳をとってゆく上でのひとつの宿題になるだろうと感じる。
友人は正子のエキセントリックな印象があまり好きではなかったけれど、今回の展覧会で、好感を持てるようになったと言う。「韋駄天」の正子を普通に受け入れていたわたしには、逆に、あれ?と思う部分がある。あぁ、こういうものを彼女は追い求めていたのかと、妙に気恥ずかしいような、人が心に仕舞いこんでいた無垢な部分を、うっかり垣間見てしまったような、そんな動揺があった。
「うぶさ」と彼女は言ったのだ。「うぶさ」になにか心を掴まれて身動きできなくなっている正子さんを思い、わたしは、彼女のその豪快な人生の奥に秘められ守られ続けられたひとつの憧憬を思わずにはいられない。
砧公園の新緑の中で昼食を取り、用賀の喫茶店のテラスでお茶をしているうちに夕方になってしまった。日が長くて気がつかなかった。以前は、一緒に外出しても、ご主人と息子さんのために、夕方になると早々に帰宅した友人だったが、ご主人を亡くし、息子さんも大学生になった今は、急いで帰る必要がなくなった。そのかわり、今度は、わたしが、認知症の母のために、それじゃ、今日はこのへんで、と先に立ち上がる身になった。
お互いの暮らしのありさまが、時期によって、それぞれに変わりながらも、なにか淡々と、時間は過ぎてゆく。
「あのとき、あぁでなかったら」ということがあったとしても、そこからやり直したい、なんて、やっぱり思わないわ、と彼女が言う。いつだって精一杯に生きてきたのだもの、と。
大学の頃、小林秀雄ばかりを読み耽っていたわたしにとって、白洲正子もまた旧知の名前なのだけれど、今回の展覧会に出品されていた正子ゆかりの神仏像を眺めていると、なにか、イメージの中の正子とは異なる正子が浮かび上がってきて、すこし戸惑った。それはおそらく自分にとって意味のある混乱で、きっと、それは、自分が歳をとってゆく上でのひとつの宿題になるだろうと感じる。
友人は正子のエキセントリックな印象があまり好きではなかったけれど、今回の展覧会で、好感を持てるようになったと言う。「韋駄天」の正子を普通に受け入れていたわたしには、逆に、あれ?と思う部分がある。あぁ、こういうものを彼女は追い求めていたのかと、妙に気恥ずかしいような、人が心に仕舞いこんでいた無垢な部分を、うっかり垣間見てしまったような、そんな動揺があった。
「うぶさ」と彼女は言ったのだ。「うぶさ」になにか心を掴まれて身動きできなくなっている正子さんを思い、わたしは、彼女のその豪快な人生の奥に秘められ守られ続けられたひとつの憧憬を思わずにはいられない。
砧公園の新緑の中で昼食を取り、用賀の喫茶店のテラスでお茶をしているうちに夕方になってしまった。日が長くて気がつかなかった。以前は、一緒に外出しても、ご主人と息子さんのために、夕方になると早々に帰宅した友人だったが、ご主人を亡くし、息子さんも大学生になった今は、急いで帰る必要がなくなった。そのかわり、今度は、わたしが、認知症の母のために、それじゃ、今日はこのへんで、と先に立ち上がる身になった。
お互いの暮らしのありさまが、時期によって、それぞれに変わりながらも、なにか淡々と、時間は過ぎてゆく。
「あのとき、あぁでなかったら」ということがあったとしても、そこからやり直したい、なんて、やっぱり思わないわ、と彼女が言う。いつだって精一杯に生きてきたのだもの、と。
by kokoro-usasan
| 2011-05-09 09:00
| 日々
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