瑞々しく、遠く。
新聞の訃報欄に築島先生の名前を見つけた。築島裕先生。国語学の先生だった。享年85歳。わたしは、先生が、講義の間におそらく、60回くらいは、咳払いをし、そのたびにずり落ちてくるズボンと闘いベルトを引き上げる動作をするものだから、ともすれば、授業よりも、そちらが気になってしかたなく、内心辟易としていたのだ。内心どころか、明らかに憮然としていたかもしれない。先生は、「教師」ではなく、「学者」だったのだと思う。懸命に、助詞の成り立ちや、差異、発音の歴史などを語られるのだが、無意識のうちに繰り返してしまう咳払いやズボンの引き上げには、見事なほど無頓着だった。「先生、とにかく、そのズボンをなんとかしてください。ベルトでだめなら、サスペンダーにすればいいじゃないですか」、わたしは気が気ではなかった。従って授業は頭に入らず、成績がどうだったのかも記憶の彼方。
その築島先生の訃報を新聞というなにか遠く遥かな伝言のような形で発見し、自分でも思いのほか、しんみりする。そうだ、だって、あれから30年も経つのだもの。「ズボンをずりあげるのやめて」とちょっと少女の神経質さで腹を立てていた18歳のわたしが、築島先生とともに、静かに去ってゆこうとしているような、そんな気持ちがした。おりおりの道に、今、桜吹雪。(2011.4.15)
その築島先生の訃報を新聞というなにか遠く遥かな伝言のような形で発見し、自分でも思いのほか、しんみりする。そうだ、だって、あれから30年も経つのだもの。「ズボンをずりあげるのやめて」とちょっと少女の神経質さで腹を立てていた18歳のわたしが、築島先生とともに、静かに去ってゆこうとしているような、そんな気持ちがした。おりおりの道に、今、桜吹雪。(2011.4.15)
by kokoro-usasan
| 2011-04-16 10:05
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