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冬の夕暮れ、なにかを感じて。

日本海側は大雪。東京は凍てつく快晴が続いています。冬型の気圧配置。

仕事の帰り、犬の散歩をする「孤舟」世代の男性たちが、何人も行き交っていました。
最近はもう珍しくなくなった景色。昔は、夕方、犬の散歩をする初老の男性など、
ほとんど見かけなかったような気がします。今、郊外の住宅街では、定年を迎えた
男性たちが、飽和状態という感じ。辛辣に聞こえたらごめんなさい。なにか、悪気なく、
そうした「変化」にすこし驚いているのです。

逆にいうと、60数年前の戦争によって、ある特定の世代の男性が、どれだけ喪われて
いたかということではないかとも思うのです。そもそも、わたしが20代の頃、60代70代の
男性たちが、こんなに街にあふれているのは見た記憶がありません。(まぁ、東京郊外
という土地柄もありますし、関心の外で、目に入らなかっただけかもしれませんが。)

そういえば、小津映画には、画面には現れることのない、重い意味を持った陰の脇役が
いつも存在している、という文章を最近どこかで読みました。なるほどと思いました。
その脇役とは、当時、家族の中には(近い縁、遠い縁を含めて)、必ず一人はいたかも
しれない戦死者の気配であるというのです。戦死した息子、戦死した兄、戦死した
隣のお兄ちゃん、戦死した近所のおじさん・・・。
登場人物たちは、若くして亡くなった彼らのことを、みな、ひっそりと胸に秘めながら
生きています。自分たちだけが家族を喪ったのではない、どこもそうだったのだと
いう配慮や、逆に、自分たちの家族だけが無事だったことからくる慎みのようなもの、
そういうものが、人の口を重くし、そのことは静かに日々の底に沈んでゆきました。
だからこそのあの時代の、あの小津映画の「空気」「気配」ではなかったのかと。

誰にもそうした「面影」が心に残っていた時代、そうした哀しみへのいたわりが、
社会の見えない奥底に、暗黙の了解で流れていたのかもしれません。
それが、この国の60年余の平和の大元を守ってきたのかもしれません。
これからは、どういう時代になってゆくでしょうか。
右往左往しないで、腹を括って、生きていけるでしょうか。

それでも、ね。
ずっと仕事づくめで来た年配の男性たちが、冬の夕暮れ、つらつら、犬を
散歩させながら、「今日も寒いですなぁ」「ほんとうに。朝より、もっと寒くなってきた
ような気がします」などと、目を細めて語り合っている様子などは、ちょっといじらしく、
悪くないなとも思います。「おじさん、ファイト」ってね。
(かくいう、このすこし年下のおばさんは、最近、寒さのせいか、膝が痛く・・・やれやれ。)
by kokoro-usasan | 2011-01-16 21:19 | 日々 | Comments(0)


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