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レモンドロップ

レモンドロップ_e0182926_9585828.jpg
わたしの部屋には西側に高窓があるので、
夜中にふいに目を覚ますことがあると、
それは、かなりの確率で
窓から射し込む月の光が
枕もとを照らして、眩しかった、ということなのでした。
昨夜もまた、そんな晩で、枕に半分顔を埋めたまま
その発光するレモンドロップをじっと見つめていたら、
再び深い眠りに落ちていったようでした。






昔、須賀敦子さんの「コルシア書店の仲間たち」(1992)が出たとき、その本の帯に
書かれていた詩の一行にまず何よりも胸を打たれたことを覚えています。
それは須賀さんの愛したイタリアの詩人ウンベルト・サバの詩の一行でした。

 人生ほど、生きる疲れを癒してくれるものはない

当時、まだわたしは、生きる疲れなどという言葉を口に出来るほどの年齢ではなかった
のですが、きっと疲れ始めてはいたのでしょう。トリエステの坂の上、パイプを燻らせ
ながら人生を謳ったこの老詩人の含蓄ある言葉が、染み入るように胸に残りました。
これから先、どんなに疲れ、哀しいことがあったとしても、それを癒すのもまた、この
生なのだ、と胸に刻み込んだ、といえばいいかもしれません。

昨日、仕事の合間、同僚のFちゃんと他愛ない話を交わしながら、「生きる哀しみは
生きることでしか癒せないものだから」とうっかり口を滑らせたとき、あぁ、これは、
サバのウケウリだな、と内心、苦笑したのでした。

きのうの日記でご紹介した佐々木中さんの本は、実は幾分、わたしを滅入らせて
いました。何故、こんなふうに「煽る」のかと。その若さのようなもの、演劇的興奮を
想起させる回転運動のような展開が、理解の範疇ではあっても、やや枯れかけた
心には辛かったのかもしれません。結局、なにか知性の極みのようなものに、
自分をリーチさせる高揚感よりも、この世に連綿と続く浅はかさの底の底の方の
砂を飽かずさらってみたいような気持ちが自分にはあるのだと感じたのです。

今朝、鈴木常吉さんのCDを布団の中で聴いてみました。「望郷」というアルバムの
最後の曲は、「水の中の女」です。先日のライブで、この曲を歌い始めたときの
鈴木さんのどこか狂気を孕んだ優しい表情が忘れられません。
(狂気を孕んだ優しい表情って、判りにくい表現ですね)

  水の中は冷たかろと
  空行く鳥が訊く
  池の底では淋しかろと
  水辺の草は言う

  赤いドレスに結んだ
  白いリボンが
  魚の口でほどかれて
  水面に浮かんだ

    (中略)

  春の日差しで膨らんだ
  宿屋の壁には
  駅へと向かうバス停の影が延びていた
by kokoro-usasan | 2010-11-19 11:01 | 日々 | Comments(0)


閉じられていないもの


by kokoro-usasan

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