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追憶のような

雨になる。暑さもやっと一休み。庭の緑も長い渇きを癒しているのだろう、ひっそりと
しめやかにそれぞれの朝に安らいでいる。窓から流れてくる空気が優しい。

けれど、日々は、そこそこに倦んでいる。わたしに快楽と呼べるものはなく、歓喜と
呼べるものなど、一体何年知らずにいることだろう。そこはかとない笑みを浮かべては
やり過ごしたこれらすべての日々に、ただそれだけに、諦めのような感謝と幸せを紡いで
きた。そうとしかできず、それでしか許されなかったものたちもまた、やがては、指の隙間
から取りこぼし、手放さざるを得ない。結局、美しかったものは、胸のうちに抱えたまま
誰にも口をつぐみ続けたひとりだけの夢と憧れだけだったのだろうか。

忘れてゆく。なにもかも。その夢や憧れさえも。
ブレンダ・ラッセルのその曲をふと思い出した。もう22年も経っているではないかと、
溜息も出るけれど、必死に取り繕ってきたものがあまりに無意味ではなかったかと
静かに見返さずにはいられないような淋しい懐かしさで、耳を傾ける。

本当のところはどうなのか。わたしは、繁華街の夜明け、薄汚くカラスに喰い散らか
された舗道の片隅で、煮ても焼いても喰えない人生を終えることに、密かに憧れては
いなかったか。摩天楼と、袋小路のある都会が、心から好きだったのではないのか。
だれもが、無縁仏のような、その街が。


by kokoro-usasan | 2010-07-29 12:03 | 音楽 | Comments(0)


閉じられていないもの


by kokoro-usasan

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