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anywhere but here

anywhere but here_e0182926_10514680.jpg「ここではないどこか」

昨日、夕飯の買い物で駅前まで行ったものの、それまでしょっちゅう買い物ついでに寄っていた書店が閉店してしまったせいで、なにか今ひとつ欠落感があり、仕方なく電車にのって隣駅の書店に足をのばしてしまった。「立ち読み」するために、隣駅まで行くなんて暇人だ。amazonは、あちこちの書店をまわって目当ての本を探す手間がなくてとても便利だけれど、わたしは、書店で、見知らぬ人が本を手にとって、黙々と読みふけっていたりするの見ながら時間を潰すのも好きだ。へー、あのひと、そういうの読むんだ、とか、横目で見て観察。自分もそういうふうに観察されているのをある程度承知で、店内をまわる。ひとつの関係性がそこにはあるのだと思う。

立ち読みの楽しみとは言うものの、実際には、結局何冊も買って帰ることが多いから、わたしは書店にとっては、そう悪い客ではないと思うのだけど・・・。

きのう行った隣駅の書店は妙にコミックコーナーが充実していたので、意識的にコミックコーナーの迷宮に入り込み、いろいろ手にとってみた。レコードに「ジャケ買い」というのがあるように、漫画も表紙買いしてみようかと思ったけれど、意外にも小心で、手堅く萩尾望都の文庫本を買った。萩尾望都は、わたしが小学生の頃にはすでに売れっ子だったので、感覚的には、「いにしえの」漫画家のような気持ちになっていたのだけれど、そんなことはなかったのですね。きのう買ったのは「山へ行く」という小品集(2016)なのだけれど、anywhere but here(ここではないどこか)がすべての作品のテーマになっていて、懐かしい異世界、異空間、にひたった。

そのなかに、最後の3ページにしかセリフのない、たった20ページの「柳の木」という作品があるのだけれど、なんだか、泣けてしまった。柳の木のしたに傘をさした女性が春も夏も秋も冬も立っている。昼も夜も。胸を打つ展開だった。人間の想像力は、それでいいのだ、と思う。





追記

「柳の木」についてやや説明不足ではないかという気がして、自分なりにもう少し長い解説も試してみたのですが、どうも気乗りがしないので消しました。ただ、もし、実際に手にとって読まれた方がいらっしゃったなら、わたしは次のようなことについて語り合ってみたい気がするのです。

「あの女性はいつもこちら側を向いていて、なにか画面が二分される違和感があったのだけど、あとで考えてみると、その切なさが、彼女の「向き」によく表されているのだなぁって思ったの。本当に見たいもの、会いたいものを、彼女は正面から見ることをしていないのよね。そこには作者の意図が働いているということね。どうして傘なんかさしているのかなぁって最初に思った疑問も、実はきちんと意味を持っていることが、もう一度画面を見直すとわかる。そして、彼女がずっと少女のように若いままで、一言も言葉を発しないことが、この作品をより印象深いものにしているなぁって思う。そこには通底している「死」だけでなく、「誕生」を想起させるなにかがあって、あぁ、わたしたちはみな、こういう若い女性から生まれてきたのだなぁって考えてしまった。もちろん、最近は若くない出産も多いけど、昔は、まるで子供のような女性が子供を身ごもり、命をつないできたのよね。彼女たちが、「わたしの赤ちゃん」ってその命の始まりを慈しんで育ててくれたんだわ。と、そんなことまで思い浮かべてしまったわ。子供というのは、自分より若かったころの親に会うことが宿命的に出来ないものだものね。

わたしね、あの女性が反対側を向いて、正面からじっと見たいものを見守っているという構図だったら、この作品、こんなに胸を打たなかったんじゃないかと思ってるの。それには象徴的な意味があるわけよね。で、その象徴的な意味合いを、最後に「越えてくる」人がいる。二分されていた画面の境目がそこで一瞬にして消えてしまう。

ああ、ひとの思念は、そこを超えることができるのだ、と、こみ上げるものがあったの。
あなたはどうでしたか?   」








by kokoro-usasan | 2016-09-13 12:20 |


閉じられていないもの


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