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詩人の言葉

きのう、青山のクレヨンハウスに寄った折、長田弘さんの追悼コーナーで2冊本を求めたのだったけれど、今朝の朝刊に亡くなる前日の長田さんのインタヴューが掲載されていて、これは、このブログにも備忘録として残させていただきたく思った。(ページにリンクをはると、リンクが切れたときに虚しいことになってしまうので、毎日新聞様、無断転載ご容赦ねがいます。どうせ、読者数、数人ですから。)

レコード店に勤めていたとき、わたしはカザルスのCDの横に、長田さんが書いたカザルスの詩が入っている詩集を横に並べてディスプレイしたことがある。自分の大好きな本を家から持って行ったのだった。CDを物色するお客が、長田さんの詩もじっと読んでくれていることが嬉しかった。

ところが、公休の翌日、売り場に行くと、カザルスのCDも、長田さんの詩集もなくなっていた。同僚に聞くと、両方買っていった人がいるのだと言う。「両方?!」 詩集のほうは、わたしの私物ですよ、と思わず語気が荒くなりそうなのを抑えながら、あの詩集は、売り物じゃないですよ、古本のディスプレイですよと力なく言って、諦めた。もう、戻ってくることはないとわかる。誰が買ったのかわからないのだから。とても大切な本だった。でも、その大切な本を、誰かが読んで感動して買っていってくれたのだと思うと、それでいいという気もした。わたしと同好の方だったということだ。いま、その詩集は絶版なので、ちょっと惜しい。長田さんというと、そのときのことをよく思い出すが、平易な言葉で、とても胸に響く詩を書く方だった。以下の、インタヴュー記事を、毎日新聞ではないかたのために、ご紹介する。胸うたれるにちがいない。



長田弘さん死去:死の前日、最後の言葉
毎日新聞 2015年05月17日 東京朝刊

詩人の言葉_e0182926_10402644.jpg亡くなる前日、最後のインタビューに応じる詩人の長田弘さん=東京都内で2015年5月2日、竹内幹撮影





日常愛とは、
生活様式への愛着です。
戦争や災害の後、
人は失われた日常に
気づきます。

平和とは、
日常を
取り戻すことです。

 5月3日、胆管がんのため75歳で亡くなった詩人の長田弘さん。逝去の前日、毎日新聞のインタビューに応え、刊行されたばかりの「長田弘全詩集」(みすず書房)に託した思いを語った。これを集大成に半ば死を覚悟し、残された時間を自分のために使いたいとして、取材に応じてくれたのだろうか。【井上卓弥】

 2日午後、東京都内のお宅を訪ねた。長田さんはじっと目に見えない何かを見つめるように話し始めた。「最近、愛国心という言葉がよく使われますね。でも、パトリオティズムという外国語は、欧米では生活様式への愛着を指す言葉です。高揚したナショナリズムのように、愛国心と訳すのは正しくないと思うんです」

 長田さんが残された時間と力を注いで書き下ろした「全詩集」巻末の「場所と記憶」に、こうある。

 <パトリオティズムというじぶんにとっての詩の変わらぬ主題……。パトリオティズムとは「日常愛」のことだ。「愛国心」とする日本語は当たらない。……パトリオティズムは宏量(こうりょう)だが、ナショナリズムは狭量だ。>

 「日常愛」とは何か。「それが生活様式への愛着です。大切な日常を崩壊させた戦争や災害の後、人は失われた日常に気づきます。平和とは、日常を取り戻すことです」。時折、声を詰まらせながらも、絞り出すように話し続けた。

 長田さんは1960〜70年代、アウシュビッツやスペイン市民戦争(36〜39年)の痕跡を訪ねた。先の大戦で大きな空襲被害を免れた故郷・福島は4年前、戦後最大の震災に見舞われた。「場所と記憶」にはもう一つ、詩人の原点を示す一節がある。

 <一九六〇年、詩を書きはじめる。……第一次大戦で戦死したウィルフレッド・オウエンの詩を知り、オウエンの「詩はpityのうちにある」という詩に対する態度に、決定的な影響を受ける。>

 82年刊行のエッセー「私の二十世紀書店」もオウエンの詩で締めくくられていた。「大戦終結の1週間前、25歳のオウエンは西部戦線で亡くなりましたね。pityは普通、哀れみと訳されますが、私は失われたものへの愛情と考えてきました」。しばらく黙ったまま、33年前の本に視線を落としていた。

 「全詩集」には、日本軍兵士の陣中日記を引いた詩も収められている。

 <「……/焼のり、焼塩、舐(な)め味噌(みそ)、辛子(からし)漬、鯛(たい)でんぶ、牛肉大和煮/……」/戦争にいった男の遺(のこ)した、戦争がくれなかったもののリスト。>

 「戦争はこうして、私たちの生活様式を裏切っていきました。こういう確固とした日常への愛着を、まだずっと書き続けたかった。戦後70年の今、失われようとしているものがいかに大切かということを……」

 別れ際、長田さんは「窓を開けると、風の音や誰かの声、新聞配達の音−−そういう日常が聞こえてくるんです」とつぶやいた。その口調は穏やかだった。

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 ■人物略歴

 ◇おさだ・ひろし

 1939年、福島市生まれ。「私の二十世紀書店」で毎日出版文化賞。詩集「幸いなるかな本を読む人」で詩歌文学館賞。昨年、詩集「奇跡−ミラクル−」で毎日芸術賞を受賞した。
by kokoro-usasan | 2015-05-17 10:54 | ことば


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