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庭の千草

a)
先日NHKで放映された鶴見俊輔特集を録画したものを、繰り返し見る。見ているというより聞いているという感じ。このところ、また、刺し子を始めたので、指はちくちくと布巾を縫いながら、耳で、様々なかたたちの「証言」に耳を澄ます。これらについては、ただ見ているだけでなく、いずれ、文字に起こしておこうと思う。他者が、自らの経験を踏まえて、その深い井戸から汲み上げて語っているものは、たとえ誰でもわかる言葉を使ってはいても、けして誰にでも測れる重みではないのであり、その重みに心して触れようとしない限り、「ひとの思い」は、ただのバラエティー番組のように消費されて終ってしまう。

鶴見さんの「絵葉書の余白に」という著書のなかに、こんな一文がある。「戦争は、国家と国家のたたかいだが、たがいにたたかう国家が実は肩をよせあって、それぞれの国の民衆を殺しているという別の側面をあわせもっている」

国が「やむをえない」戦争という大義を出してくるとき、そこで「やむをえない」と踏み切っているのは、結論からいって「自国の国民を殺すこと」に他ならない。国民は、戦争によって死ぬのではない。為政者の失策によって死ぬのではないか。

b)
生まれたときから戦火のなかにあって、気がつけば、銃を背負っていたような子供たちが、周囲の大人たちから教えられる「自分の国の歴史」とは一体どんなものだろうか。安倍氏は、「日本を取り戻す」と言った。イラクの子供たちも、「イラクを取り戻す」とあおられているのではないか。イスラエルの子供たちも、「イスラエルを取り戻す」と言い含められているのではないか。ウクライナはどうか。アフガニスタンはどうか。ナイジェリアはどうか。北朝鮮はどうか。ルワンダはどうか。何十万人といる各地の難民キャンプで膝を抱えている人たちにとって、歴史とは何か。文化とは何か。政治とは何か。国家とは何か。

c)
鶴見さんがお好きな「庭の千草」という曲のことがふと頭に浮かび、久しぶりに聴いてみた。日本では「庭の千草」として、白菊が詠まれているが、原題はThe Last Rose of Summer、夏の名残のバラ、というのだそうだ。そのもとの歌詞の甘く感傷的な言葉の彼方に、反戦を透かし見ながら、人間が繰り返してやまない殺戮の歴史を思う。




             
by kokoro-usasan | 2014-08-10 00:53 | つぶやき | Comments(0)


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