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ジャスミン

a)
昼間だというのに、とても昏い。庭の木々はただ黙って、空から雨粒が落ちてくるのを窺っている。沖縄には、最大級の台風が接近しているというニュース。それはきのうのニュース。今朝はまだ続報を聞いていない。ひどく久しぶりに、ステレオのスピーカーから音楽を流してみる。普段はウオークマンとイヤホンで我慢する。ずっと眠っていたステレオの中にはモーツアルトのピアノコンチェルトが入りっぱなしになっていた。それでもいいけど、たぶん、そのテンポが今日はちょっとしっくりこないだろう。中村善郎のボサノヴァにする。ギターの音色が聴きたくなった。

b)
数日前、本棚を物色していて、オレンジ色のペンギンブックスを発見した。"The Member of the Wedding"、カーソン・マッカラーズの小説だ。安手の頁はみな見事に茶色く変色している。むかし、翻訳が手に入らなくて、原書で読もうとしたときのものだろう。今は、アマゾンでも検索すれば、翻訳で読めるのかもしれない。表紙を開けてみる。「それは、フランキーが12歳だったある日のこと、むせかえる緑に頭がへんになりそうな夏に起きた。もう長い間、彼女は誰の仲間入りもできずにいた。なにかのクラブにいれてもらったこともなければ、とにかく、この世のどんなものにも「仲間入り」ということができずにいた。フランキーは家に引きこもって、時間を持て余してはただうろうろするばかりで誰とも繋がることのない置いてけぼりの人間になろうとしていた。実のところ、なんだか気が気ではなかった。」これは冒頭部分の、結構独善的な意訳。それでこのお転婆な名前をもつ少女はその後どうなったのか。

「手厚い」ものを知らずに成長した子供は、「手厚い」ものに焦がれるが、その実質に疎い。「手厚さ」を学びたいのだが、それに習熟するには、まず手厚くされるということの実感とその安心感のようなものを「体得」しなければならない。she was afraidとは、その焦燥感をあらわしているだろう。頭で夢想することと、実際の自分が「体得」できている経験の間には、このませた子供を苛むに足る溝があった。

ジャスミン_e0182926_235751100.jpg家庭に恵まれなかった彼女は、遠く離れて暮らしている歳の離れた兄が結婚することを知り、これが、自分の生活を変える転機になることを確信する。兄の幸せな新婚生活に仲間入りさせてもらうのだ。新妻と一緒に3人で楽しく新婚旅行にも行けるだろう。そのために、まず、フランキーなんて、生意気そうな名前はやめて、ジャスミンという可愛らしい名前に改名することにしよう。フランキー改めジャスミンは、うきうきしながら、結婚式にむけての旅行の準備を始める。新妻はわたしにとても優しくしてくれて、わたしも彼女ととても仲良しになる。こんな幸せなことがあろうか。

最後の章で、彼女は、ジャスミンから、今度は、フランシスという名になる。これは、改名ではない。なんとなれば、彼女の本名であったから。何故、フランシスにならなければならないかは、おそらく、皆さん、お判りと思うので書かない。

c)
雨が降り出した。さぁ、仕事にゆこう。
by kokoro-usasan | 2014-07-09 12:42 | 日々 | Comments(0)


閉じられていないもの


by kokoro-usasan

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