the citizens of tokyo

今日の毎日新聞の特集記事がとてもよかったので、全文転載させていただこうと思います。(段落等はブログ面の都合上若干変えさせていただきました。ご容赦。原文はネットでも読めます。)


e0182926_0381185.jpg特集ワイド「東京、そして」(上) 
ドイツ文学者・池内紀さん
東京都三鷹市で、武市公孝撮影
毎日新聞 2014年02月03日 東京夕刊


  <この国はどこへ行こうとしているのか>
 ◇歴史的転換期の自覚を
           池内紀さん(73)
 

「ここは僕の応接間みたいなんですよ」。東京・JR三鷹駅前の小さな喫茶店。窓から玉川上水沿いの並木が目に入る。池内紀さん(73)は、定位置の一番奥の席に座った。「自由になりたい」と定年前に55歳で東京大を退官したドイツ文学者。携帯電話やパソコンは持たず「生涯テレビなし」の暮らし。「困ったことはない」と話す池内さんは、町を歩いて子育て中のお母さん方の雑談を拝聴したり、地下鉄の週刊誌の広告を見たりして世の中の空気を感じ取る。この人の目に都知事選はどう映っているのだろう。穏やかな表情で語り始めたのは東京電力福島第1原発事故だ。

 「東京では、東日本大震災の被災地から遠く離れた『空間ラグ(ずれ)』という安全弁が働いています。だから都民は原発から目を背けていられるのです」。常に感じるのは東京の欺瞞(ぎまん)だ。「都民は原発のリスクを分かっていながら福島に押し付け、自分たちとは関係ないとみている。そして危険がない優遇された状況で大量の電力を消費している。事故を起こしたのは東北電力ではなく『東京』電力なのです。都知事選で原発問題をどうして避けて通れるのでしょう」 

だが都知事選で「脱原発」についての議論は、十分盛り上がっているとは言い難い。政府・与党は原発の争点化を避け「脱原発」を訴える候補者を批判する。この動きに呼応するかのような発言も飛び出した。森喜朗元首相が2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長に就任する直前「五輪のためにはもっと電気が必要だ。今から(原発)ゼロなら五輪を返上するしかなくなる」と述べたのだ。「愚かしい人の発言」。即座にそう評した。「東京五輪は被災地復興のために必要と世界に訴え、支持されました。華やかな祭典よりも復興を念頭に置いた催しにすべきです。政治家が『こうなったら大変なことになるぞ』とデマを言って民衆を脅かすのは政治的に一番下劣なやり方です。ドイツのナチスが権力を握るためにこのような手法をよく使いました」 ゲーテでもカフカでもなく、ナチスと聞いて身構えた。池内さんは今、ドイツ国民がなぜナチスを許容したのかを「最後の研究」として取り組んでいる。ドイツ文学で生きてきた者として避けて通れない問題との信念からだ。

政府・与党は「行政経験がある方がふさわしい」と盛んにアピールしている。池内さんは「東京都は人口でも財政でも欧州では一つの国に相当します。そのリーダーは一人の行政官にとどまってはならないでしょう」と反論する。望むトップ像として挙げたのはドイツの東西分裂時代に西ベルリン市長を務めたウィリー・ブラント氏。後に西ドイツ首相に就任し、東ドイツやソ連など社会主義諸国との関係改善に尽力した。この「東方外交」は冷戦構造崩壊への糸口となったとされ、ノーベル平和賞を受賞している。「ブラント氏の市長時代、東独によってベルリンの壁が構築されましたが、彼は常に和解の政治という姿勢で東西の人々にメッセージを発信した。行政官ではなく世界的な政治の流れの中で行動しました。都知事だって大局的な立場から行動すれば世界に注目される地位なのです」

池内さんは一つの“秘策”を明かす。「脱原発候補が当選したら世界に向けて『原発は全廃する。都知事として廃止を念じ、誓います』との趣旨の東京宣言を発信してほしい。政府が反発しても首都のリーダーが発言する自由は誰も妨げられない」震災から間もなく3年だが、原発事故の行方は見えない。これを池内さんは「モヤモヤとした空気」と表現する。「東京宣言はこの空気を吹き飛ばし、クリーンエネルギーの開発は日本人に力と夢を与える。脱原発で経済成長が遅れるというのならば大量消費の社会を見直せばいい」 安倍晋三首相は1月28日の衆院本会議で「海外からの化石燃料への依存度が高くなっている現実を考えると、そう簡単に『原発はやめる』と言うわけにはいかない」と再稼働の必要性を訴えた。脱原発候補者が落選すれば「信任を得た」とばかりに再稼働にかじを切るのではないか。「この国は岐路に立っている。原発と決別して新たな道を歩むのか、それとも原発再稼働を認める現状維持路線でいくのか−−。重い選択を迫られている都民は棄権してはいけない」と力を込める。「五十数基の原発というとてつもない重荷を背負っている。次世代の重荷をどれだけ軽くできるか。そう考えて判断すれば、おのずと答えは出ませんか?」 ここまで語ると、場を和ませるように笑みを浮かべた。「猪瀬直樹前知事は唯一、良いことをした。原発の是非について投票できるチャンスを作ってくれましたから」

それにしても「ナチスの手法」との一言が頭から離れない。麻生太郎副総理兼財務相が昨年7月に「ワイマール憲法はいつの間にか変わりナチス憲法になった。誰も気がつかない間に変わった。あの手口、学んだらどうかね」などと発言したことが頭をよぎる。思わず「今はナチスが権力を握った状況と似ているんですか?」と尋ねていた。「状況はむろん違いますが」と切り出し、視線を斜め上に向けた。「政府や自民党の一部の人の行動はやはりナチスの手法と似ているのでは。現に中国、韓国を仮想敵国にして、国益と領土を声高に主張している。いずれ反対する人には『愛国心がない』と言い出すでしょう。どんなに優れた法律、制度でも権力が変質すれば一夜で変わる」

 「今、日本人は油断していませんか? 自民党を大勝させた12年衆院選、13年参院選が典型では。私たちが『ここまで来たら歯止めを掛ける』と思っていても政治の変化は速く、間に合わない。安倍首相は『決められる政治』を掲げ、何かと『私が決める』と口にします。でもそこには大切な『国民の意思に従って』が抜け落ちている。こうした行動を許していると取り返しがつかない状況に陥るのは歴史で明らか。だからこそ首相と並んで世界にアピールできるリーダーが必要です。都知事は首相と違い直接選挙で選ばれるので、民意という点でより正統性を帯びています」 歴史を振り返った時、今回の都知事選が転換期になるかもしれない。けれども何人の都民が「この選択が国の行方を示す羅針盤の針になる」と考え、1票を投じるのだろう。 

店外で池内さんと別れた。ツイードのハンチング帽をかぶってリュックを背負った後ろ姿を見送っているうち、この人が起草した東京宣言を読んでみたい……そんな気持ちがこみ上げた。【瀬尾忠義】

(青字編集は当方による)


「棄権」という字をよく見てみると、あらためて、とても、辛い言葉だなぁと思います。権利というと、なにかおのれの損得をめぐって闘うもののようにも聞こえますし、げんに、そのような場面で声高に唱えられることも多いのですが、権利は、ひとりの人間の心を託すものでもあります。だとすれば、棄権は、棄身であり、棄心にも通じます。東京都の選挙ではありますが、わたしたちが、東京電力の原発事故によって被災させてしまった福島のかたたちにどう償う気持ちがあるのか、或いは危険な基地のほとんどを沖縄県民に押し付けて、自分たちは、基地ではなくオリンピック誘致に熱狂してきた姿をどう思うのか、たとえ少数派でもいい、心有るかたは、棄権せずに、自分の心に近い候補者への投票に行ってほしいと思います。

棄権が多ければ、自民公明の磐石な組織票を得て、あのどう見ても小者という印象を与える与党候補が得票数で優位にたつことは明らかですが、当選落選ということだけでなく、脱原発派の候補に集まった得票数を合算して、都民が原発問題をどう判断しているかを示すまたとない機会でもあります。

今回、有力な脱原発派候補が二人になってしまったことで、票が分散され、結果として、与党候補を勝たせてしまう懸念は拭えませんが、このように脱原発派の都民が投票に苦渋の選択を強いられることは、本来、議会制民主主義の大前提ともいえるもので、自分の一票をどう託すかは、もともと、そんなに甘いものではないのだと知ることも、きっと大事なのだろうと思います。脱原発派の一方の候補が、先月、このようなことを語っておられました。「脱原発を実現する最後のチャンスだから候補一本化のために選挙からおりてくれと言うひとがいる。しかし、1回負けたら終りなんて、そんな薄っぺらな運動で脱原発は実現できるのか」このことは、各候補者の、政策実行意志の本気度にも繋がる言葉だと思います。今回負けたら、もう都政にはそれほどの関心はないのか、引き続き、都民の暮らしに地道に関わりつづけたいと思っているのか。そのようなことも、投票日までよく考えて決めたいと、わたしは思っています。
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by kokoro-usasan | 2014-02-03 20:26 | きょうの新聞から | Comments(2)
Commented by いざ at 2014-02-07 02:08 x
読めてよかったです。載せてくれてどうもありがとう!!
Commented by kokoro-usasan at 2014-02-08 09:36
いざさんのいるドイツから見ると、日本って今、どんな感じに見えているのでしょうね。このところ、中島京子さんの「小さいおうち」という小説を読んでいるのですが、「なんだかわからないうちに戦争に向ってゆく」感じが、背景として見え隠れしていて、ちょっとぞっとします。


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