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クラリスを探して

a)
年末来、休日でも家から出かける気が起きない。引きこもりと言えば、そうなのだが、その引きこもっている感じはけして悪くなかった。庭の蝋梅は良い香りを放っており、それを嗅いで過ごす時間と、地下鉄のかび臭い通路を歩き回っている時間の、どちらが贅沢といえるのか、天秤にかけてしまうのだった。だが、その天秤は、完全なものではなく、時には、しなりやすい芯をからかうかのように、竹とんぼのごとく風に吹かれて回る、実にインチキなものであるかもしれなかったけれど。

早朝の凍てついた庭は、歯磨き粉の匂いがした。干草のように干からびたマリー・ゴールドを静かに根元から引き抜いた。山に住む知人からの手紙には、抜かずに、土に梳き込むのだとあった。なるほど、と思ったけれど、我が家の手狭な庭の土では、それを梳き込もうとすれば、近くの土中に眠っている他の球根たちを傷めてしまいそうだった。まだ土を押し上げるには至らないが、そろそろ芽が出始めているに違いなかった。いや、芽よりもさきに、まずは、貪欲なまでに力強く、「根」というものが・・・。

b)
初氷はいつも庭の片隅に置いてあるバケツに張った。たわむれにコツコツと叩けば、思いのほか固く、力を込めて、拳で押すと、バキっと割れて、拳ごと水の中に入った。あ、と、驚く。そして、おもむろに手を引っ込めてしまう。これが危ないのだ。引いたその勢いで指を切ることがある。水と氷。同じものの見せる違う顔。人間にもそういうことがあるだろうかと、ふと思う。

c)
焚書官モンターグにフェイバー教授は言った。
「第一に大切なのは、われわれの知識がものの本質をつかむこと。第二には、それを消化するだけの閑暇を持つこと。そして第三には、最初の両者の相互作用から学びとったものに基礎をおいて、正しい行動に出ることである」(レイ・ブラッドベリ「華氏451度」)インターネットが、わたしたちから奪い去りつつあるのは、第二の閑暇であるような気がする。クリックひとつですむ検索システムが、人間から、自分の頭で考えることを忘れさせてゆく。おみくじを引いて、出た言葉に惑わされる心のように、なにか一瞬にして、「あぁ、そうなんだ」と思い込まされてしまう感覚。「で、次は、どうしたらいいの」とまた、検索する。これが、もし、延々と続いてゆくならば、「検索」システムに自分の人生を預けてゆくことになる。原典とは格闘することなしに、抜書きした「格言集」だけで生きてゆくようなものだろうか。こんな時勢だから、たった1行の結末の言葉を味わうために、300ページを黙々と読み込むというような時間を、なるべく自分に確保してやらなければと思う。

d)
寒いせいなのか、逃避を誘うように、毎夜、睡魔きたる。
by kokoro-usasan | 2014-01-10 13:16 | 日々 | Comments(1)
Commented at 2014-01-12 20:43 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。


閉じられていないもの


by kokoro-usasan

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