お針
退職して半年ほど乳がんの抗がん剤治療を行っていた同僚が、いよいよがん摘出の手術を行うことになった。「実は・・・」と耳打ちされてから、あっという間に時間がたったような気がする。先日、会ったとき、裁縫の得意な彼女は、わたしに手縫いのカード入れをプレゼントしてくれた。
彼女は、裁縫のことを、「お針」と言う。わたしは、彼女のその「お針」という言葉が好きで、まったく不器用で何も満足に作り上げられたためしのないわたしなのに、時々、「お針」と口にしてみることがある。それは、明らかに、「ミシン」縫いの響きとは違うのだった。一針、一針、ちくちくと縫い上げてゆく、静かな時間を想像させてくれる。
一体、わたしは、いくつ彼女の「お針」作品を持っていることだろうか。ひとつ、ふたつではない。職場の同僚には、彼女のほかにも、手先の器用な人が多く、裁縫に限らず、本当にたくさんの「手作り」のものをいただいてきた。それは、喩えるなら、わたしの心の奥深くに沈んで蓋をされている何かを、少しずつ、少しずつ、呼び覚ますような時間だったようにも思える。
今回いただいたカード入れは、開けてみてびっくりした。なんとも幾何学的な不思議な構造になっていて、確かに、カードがきれいに収まるように出来ているのだが、発想がなんとも画期的だ。
抗がん剤の治療で、時々、何にもやる気がなくなって辛いと言いながら、元気なときには、こんなふうにこんをつめて「お針」をしている彼女の姿が目に浮かぶ。彼女の強さが、わたしに教えてくれることは多い。わたしも強くなるだろう。
出逢ったひとたちから教えられた優しさは、強さとなり、そのまなじりをけっした強さが、やがてたとえようもなく優しいものに変貌して、いつかわたしも哀しむひとたちの頬にそっと触れられる日がくるように。
by kokoro-usasan
| 2013-12-13 12:50
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