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pure

pure_e0182926_23491073.jpgこれは小説の紹介ではなく、どうもこの絵を描いておられる方に覚えがあるというお話だ。氷見こずえさん。それは、あの氷見さんだろうかと・・・時々名前をみるたびに気になっている。ある時期、わたしがいた職場には、たくさんの大学生がバイトに来ていて、そこに彼女も僅かな期間だが所属していた。彼らとのつきあいは、ちょっと年長のために彼らとは同じ青春というわけにゆかなかったわたしからすると、すこしばかり遠巻きな眺めという感じになったけれど、それでも、うっすらと聞こえてくるものがあって、氷見さんは美大の学生さんではなかったような気がする。ただ、なにかのおりに、絵を描くのが好きだと語っていたような気がするのだ。とても清楚で愛らしい顔立ちなのに、寡黙なせいか、地味な存在で、世の中には、それほどの容姿で、もし本人にその気があったなら、どんな華やかな場にだって招待されるであろうに、ひっそりと貝殻のように静かな彼女は、その分、意思的で爽やかな存在に感じられた。すぐ下に妹さんがおられて、顔が、そっくりといっていいくらいよく似ているのに、性格がまったく異なり、芸能界のようなところに憧れているのだと、呆れたような顔で語っていた。妹さんの希望は、あながち、的外れとも言えなくて、現に、職場に出入りするその業界のかたたちは、時々、目配せしあいながら、あれは、だれかと囁きあっていた。

彼女は、絵を描くのが好きだと言い、でも、その口ぶりは、絵で食べてゆきたいというような感じではなく、普通に就職して、空いてる時間にいつも絵が描けたら嬉しいな、楽しいな、という感じに聞こえた。なんだか、その野望の無さ加減に妙な味わいがあって、不思議な子だなぁ、と、目が離せない気持ちになる。当時、職場には、美大の学生がいて、その子は、情熱のすべてを絵に注ぎ込んでいるという感じのぎらぎらしたものがあったので、それと好対照だったのだ。これは、わたしの推測だが、その子のほうはむしろ、絵への情熱が、恋愛の情熱にすりかわって、絵とは別の道を進んだのではないかと思う。

あれから、もうずいぶん経ったから、もし、このイラストの氷見こずえさんが、わたしの知っている氷見さんだとしても、すっかり、大人になって、こちらのほうが恐縮してしまうほど、自立した女性になっているに違いない。でもなんだか、感慨深いのだ。絵を描いている時間が幸せだという純粋は気持ちが、このイラストには表れているように思え、だから、きっと、この氷見さんは、あの氷見さんなんじゃないかと思うとき、純粋さって、なんて、大事なことなんだろうと、教えられるからだ。それは、切ないくらい、わたしに足りないものだった。
by kokoro-usasan | 2013-06-22 00:42 | すきなもの | Comments(0)


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