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ワニのおじいさんのたからもの

きのう、強風で家がガタガタと揺れるのを感じながら、九州に住む友人に、「こちらは春一番のようです」なんて短いメールを送ってしまったのだけど、出勤するために戸外に出たら、春一番どころか、凍りつくような北風だったので、思わず苦笑してしまった。妙に恥じ入る。もうすぐ春だと思いたい気持ちが、こういう勇み足をさせるのだろうか。


ゆうべは、寝る前に、「ぼうしをかぶったオニの子」(川崎洋作 飯野和好絵 あかね書房)を枕もとに持っていった。その中の第二話「ワニのおじいさんのたからもの」を読んだのだけど、以前、そのお話のあらすじを聞いたことがあって、それによると、オニの子が、ワニのおじいさんに、大事な宝物を教えてもらう話で、それはお金でも宝石でもなく、「夕焼け」だったというオチなのだった。いい話だなと思い、実際に読んでみることにしたのだけれど、わたしの読解力の問題だろうか。単にそういう話ではなかったような気がする。

オニの子は、そもそも、「宝物」というものが、どういうものなのかを知らなかった。ワニのおじいさんに、自分の「宝物」をおまえにあげようと言われたとき、どういうもののことを、宝物と呼ぶのかをまず知らなかったのだ。
だから、宝物のある場所を示す地図をもらって、それがどういうものなのか探しにゆくわけなのだけれど・・・。

宝物があるというその場所に到着したとき、その場所では、ちょうど美しい夕焼けがあたり一面に広がっているところだった。だから、オニの子は、「これが、宝物というものなのだ」と思い、その美しさ、その素晴らしい夕焼けが見られること、そのことが、あのおじいさんのいう「宝物」という言葉の意味なのだと了解する。

だから、おじいさんにとって、宝物は、物質的なものではなく、精神的なものだったという教訓話とは、ちょっと違っていて、話は少しよじれている。そこが不思議な重層構造のお話だとわたしは感じた。なぜなら、作者は書いているからだ。本当はそうやって夕焼けに感動しているオニの子の足元に、ワニのおじいさんの宝箱は実際に埋まっていたのだけれど、オニの子は、それを知らないと。おそらく、オニの子は、そのことに気づくことはないのじゃないかな。夕焼けが終って、あたりが真っ暗になったら、宝物の記憶で胸をいっぱいにして、また旅を続けるのだろう。

それは、つまり、オニの子の、心そのものが、「宝物」の本質をつかむ主体であることを、うっすらと暗示している。宝物をどこに探せばいいか、そして、そこにある、どの宝物を持ちつづけてゆきたいか・・・・。人間って不思議だなぁ、なんで、こんな旅を、それこそ気の遠くなる時間をかけ、何世代にもわたって、続けているんだろう。
わたしたちは、みんな、ぼうしをかぶって、他者とは違うそのツノを隠しているオニの子に他ならない。

時に、自分の心に、もはや生きた宝物を問わなくなる惰性としがらみのなかにあって、飽くことなく、その旅をやめない素敵なオニの子たちをみると、わたしは、うっとりとする。心から憧れる。自分もおなじ旅をしたいと思うけれど、その前に、帽子を脱いでみて、自分自身の突き出たツノを愛することから始めなければならないのかもしれないとも思う。そして、それはきっと、自分のツノに限らない。

死んでもいいほど、生きたくなる、そんな夕焼けを見たい。
by kokoro-usasan | 2013-02-09 12:09 | つぶやき | Comments(0)


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