たあいない話
普段はまったく利用しない職場の自販機で、「とろけるミルク杏仁」なる新顔を買ってしまったのは、その日、とても疲れて、熱っぽく、なにか冷たくて甘いものが欲しかったからだと思う。とろりと甘いそれは、その要求を過不足なく満たしてくれた。
飲み干して一息ついていると、自販機の前で、先輩と後輩らしい若い男性がふたりで話しているのが、そのまま聞こえてきた。「おい、おまえ、どれにするんだ」「だから、先輩、おれ、喉渇いてないっす」「そんなことないだろう、飲めよ」「いや、まじで・・・」「飲め。どうだ、これにしろ、とろけるミルク杏仁」「やー、それだけは勘弁してください。おれ、ほんと、喉渇いてないっす」「とろけるミルク杏仁だぞ」「いや、ほんと、勘弁してください」
「とろけるミルク杏仁」を味わったばかりのわたしには、このふたりの押し問答は、なにか他人事とは思えず(?)、じっと、聞き耳を立てていたのだけど、この会話、いきなり、急展開を遂げる。
「飲めったら、飲めよ。おれの言う事がきけないのか」「いや、そんなことはありませんけど、でも・・・」「おまえな」「はい」「おまえ、女、いるのか」「えー。なに言ってるんですか、先輩。いないです」「そうか。そうだろうな」「なんですか、それ」「いや、そうだろうな。そうか、とろけるミルク杏仁はいやか。まぁ、いいや。それじゃ、水にしろ、水」「ひどいなぁ。だから、買っても、飲みませんからね」「買えば、飲むさ。(ゴトン、と、ペットボトルが取り出し口に落ちる音)ほら、持てよ。おまえのだ」「いやぁ、飲みたくないなぁ」「飲め」
こうして、ふたりは、自販機を離れて行った。わたしは、自分の机の上の空になった「とろけるミルク杏仁」を手にとると、「おまえ、女、いるのか」という唐突な先輩の問いかけがなんだか可笑しいし、「いないです」と即答した後輩も面白いと思いながら、へんな二人って、くすっと肩をすくめたのだった。
本棚のすみで、ずっと読み止しになっている「死の欲動 臨床人間学ノート」(熊倉伸宏著)を、やっぱり、そろそろ読もうと思う。明日の朝は、金環日食なのだとか。わたしは、闇が見たいので、メガネは要らない。
※こんなところで不躾ですが、Mさん、本を送ってくださってありがとう。楽しみに読ませていただきます。
飲み干して一息ついていると、自販機の前で、先輩と後輩らしい若い男性がふたりで話しているのが、そのまま聞こえてきた。「おい、おまえ、どれにするんだ」「だから、先輩、おれ、喉渇いてないっす」「そんなことないだろう、飲めよ」「いや、まじで・・・」「飲め。どうだ、これにしろ、とろけるミルク杏仁」「やー、それだけは勘弁してください。おれ、ほんと、喉渇いてないっす」「とろけるミルク杏仁だぞ」「いや、ほんと、勘弁してください」
「とろけるミルク杏仁」を味わったばかりのわたしには、このふたりの押し問答は、なにか他人事とは思えず(?)、じっと、聞き耳を立てていたのだけど、この会話、いきなり、急展開を遂げる。
「飲めったら、飲めよ。おれの言う事がきけないのか」「いや、そんなことはありませんけど、でも・・・」「おまえな」「はい」「おまえ、女、いるのか」「えー。なに言ってるんですか、先輩。いないです」「そうか。そうだろうな」「なんですか、それ」「いや、そうだろうな。そうか、とろけるミルク杏仁はいやか。まぁ、いいや。それじゃ、水にしろ、水」「ひどいなぁ。だから、買っても、飲みませんからね」「買えば、飲むさ。(ゴトン、と、ペットボトルが取り出し口に落ちる音)ほら、持てよ。おまえのだ」「いやぁ、飲みたくないなぁ」「飲め」
こうして、ふたりは、自販機を離れて行った。わたしは、自分の机の上の空になった「とろけるミルク杏仁」を手にとると、「おまえ、女、いるのか」という唐突な先輩の問いかけがなんだか可笑しいし、「いないです」と即答した後輩も面白いと思いながら、へんな二人って、くすっと肩をすくめたのだった。
本棚のすみで、ずっと読み止しになっている「死の欲動 臨床人間学ノート」(熊倉伸宏著)を、やっぱり、そろそろ読もうと思う。明日の朝は、金環日食なのだとか。わたしは、闇が見たいので、メガネは要らない。
※こんなところで不躾ですが、Mさん、本を送ってくださってありがとう。楽しみに読ませていただきます。
by kokoro-usasan
| 2012-05-20 01:07
| 日々
|
Comments(1)
Commented
by
M
at 2012-05-21 02:39
x
いきなり送りつけてしまって、不躾なのはワタクシのほうです。
含蓄なさそで、ありそな感じで、全体の構成の妙がなかなか冴えていて、学生ってやっぱりバカなエネルギーあるよねと妙に納得しつつも、バカは歳とっても変わってないなぁと感じている次第であります。
本は、人それぞれの好みもあるし、その時の気分で読見づらい時もありますんで、お気に召したらどうぞ。
お気に召されない場合は売り飛ばして、何かあったかいものでも召し上がってくださいませ。(この時期だから冷たいミルク杏仁のほうがよろしいかしら)
含蓄なさそで、ありそな感じで、全体の構成の妙がなかなか冴えていて、学生ってやっぱりバカなエネルギーあるよねと妙に納得しつつも、バカは歳とっても変わってないなぁと感じている次第であります。
本は、人それぞれの好みもあるし、その時の気分で読見づらい時もありますんで、お気に召したらどうぞ。
お気に召されない場合は売り飛ばして、何かあったかいものでも召し上がってくださいませ。(この時期だから冷たいミルク杏仁のほうがよろしいかしら)
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