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遠き一つの

仕事から戻ると睡魔がてぐすね引いて待っているらしく、ここ数日、夜になると態もなく睡魔の傀儡に成り果てていた。今日は休日。ここで、巻き返しをはからねば。あおぞらのもと、洗濯物を干す。よし、まだ眠くないぞ。(まだ昼だよ)年末に買ってそのままになっていた「週刊金曜日」を手にとって、ぱらぱらと眺めていたら、俳句のコーナーに一句、なるほどと思うものがあった。

 きみ嫁けり遠き一つの訃に似たり   高柳重信

愛する女性が自分の手の届かぬところに行ってしまった心の痛み、思うに、男性は女性よりロマンチストのようだと、筆者は述べておられる。それを読み、かつて高村光太郎が、智恵子の縁談に際し、

 いやなんです
 あなたのいってしまふのが

と歌わずにはいられなかった「人に」という詩を思い出す。「智恵子抄」はこの一言をもって始まる。わたしは、この「いやなんです あなたのいってしまふのが」という一言をけだし名言だと思っている。楽しい恋が、次の辛い局面に入るのは、いつだって、この想いに気づいた瞬間からではなかろうか。ずっと一緒にいられるためには、約束が必要なのだと気づく瞬間。目の前のひとが、誰かとともに、自分から去っていってしまう日がくるかもしれないという怯え。むしろ、本当の恋はここからなのかもしれない。それでも、わたしは、本当に男性が女性よりもロマンチストなのかどうかはよくわからない。

わたしは、女性だけれど、親しい男友達から「妻を娶りたる」という知らせをもらえば、やはり「一つの訃に似たり」という思いを抱いてきたと思う。妬みがましいものでは全然ない。でも、「やっほー」と下宿の戸を開けて気楽に入れたものが、「ごめんくださいまし」と格子戸の外で返事を待つような違いはある。まぁ、それは嘘で、わたしは、「訃報」が来る前から、「やっほー」なんて言うタイプではなかったのだけれど。

本当はこんな話ではなくて、「あなたならどう言うかと思って」と人によく手紙をもらうことに関して書いてみようとしていたのだった。それはまた今度にしよう。

一度出会って強く影響を受け合えば、その後一生会うことがなくても「あなたならどう言うかと」思いながら生きてゆける間柄というのがある。わたしは、どうも、そういう間柄ばかりたくさん周囲にはりめぐらしており、「いやなんです あなたのいってしまふのが」という光太郎の握力は、いまも憧れのままだ。
それで、智恵子が幸せだったのかどうかは、わたしにはわからないことなのだけれど。
by kokoro-usasan | 2012-01-09 13:01 | つぶやき | Comments(0)


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