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寒くなってきた朝に

朝。陽は昇り快晴。でも寒い。気温は17度。

庭の木の葉陰から、鳩の目がのぞいている。こっちを見ているようだけれど置物のように動かない。巣の上でもう卵を温め始めているのかもしれない。なにか愛しい気持ちがする。

昨夜、Kさんからご紹介いただいたDVDを観たあと、ちょっとゴダールの映画を思い出してみたり、或いはロメールの映画、たとえば、パスカル・ロジェが出ていた「満月の夜」や、同じロジェの「北の橋」を思い浮かべてみたりしていた。「北の橋」のパリは、所謂、観光で知られるパリの風景とはちょっと違う。「石」「石」「石」石造りの街だから、緑がたくさんある明るい場所に行きたいとパリの人が憧れる気持ちがちょっとわかるような、そういう、裏通りっぽいパリなのだ。パスカル・ロジェ。儚い雰囲気の女優さんだった。早世してしまったけれど。

そういえば、まだ10代の終わりか、二十代の始め頃、旅に行こうと始発の電車に乗り込むと、その車両には女性がひとりだけ乗っていて、なんとなく、わたしはその人の前の座席に腰かけた。髪をロミー・シュナイダーのようなひっつめにした、とてもきれいな女性で、淡い紫色のレンズの入ったサングラスをしていた。ヘアスタイルだけでなく、雰囲気もロミー・シュナイダーに似ていたかもしれない。きれいな人だなぁ、大人の女性という感じだなぁと、まだ小娘のわたしは、自然に見とれてしまうのだが、それも失礼な気がして、ときどきちらりと見るだけにした。きっと、その女性は、小娘が自分を盗み見しているのに気づいていたに違いなく、何度目かにわたしがちらりとその人を見たとき、しっかり目と目があってしまった。どきっとして目をそらそうとした瞬間、その人が、なんともいえないぞくっとするほど優しい目で、にっこりと微笑んだ。そして、そのあと、そのふたつの目から、突然涙がつつーっとこぼれ落ちたのだ。

何故だろう。そのあとのことはまったく覚えていない。そのひとが、どうやってその涙を拭ったのか、わたしがそれを見たあとどういう表情を浮かべたのか。そして、どこでその人が下車したのか。でも思い出すたびに、あの怖いほど優しくてきれいは微笑みは、「ねんねちゃん、これから、やまほど辛いことがあるけれど、わたしたちは、女よ。」と言っていたように感じられて、その「わたしたちは、女よ」という言ってみればわたしの妄想上の言葉が、今もわたしを勇気付けるのだ。どうして、あんなにきれいでやさしそうな人が、始発の電車にひとりで乗っていなければならなかったのか。そして、涙をこぼさなければならなかったのか。

娘というよりは、まだ子供に近いようなわたしだったけれど、だからなのか、時々、その人のことを思うと、自分を産んで、そのまま縁を切ることになった実の母のことを考える。わたしの母も、始発電車で涙をこぼしたりしたことがあっただろうか。

まだ、鳩が葉陰で卵を温めている。じっとしている。とても強い目をしている。
by kokoro-usasan | 2011-10-27 10:40 | 日々 | Comments(0)


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