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途上

途上_e0182926_10443686.jpg朝、母をデイサービスに送り出す。ワゴン車で迎えに来てくれるのだ。早番の日は、既に出勤しているので見送れないが、遅番のときは、施設のかたに挨拶して送り出す。このひとつき、母が腰痛を訴えるので、温感、冷感と、あれこれ湿布を貼って、ごまかしている。今朝はなんだか、白い湿布が殺風景に思えたので、母の腰に貼ったあと、サインペンでスマイルマークを悪戯書きしてしまった。今日は、施設で入浴のある日なので、その湿布を見て職員の方がどんな反応をするかとニンマリする。(呆れられるだけかもしれず。恥。)

しかし、今朝はひとつ事件があった。事件というにはささやかな。母を迎えにワゴン車から降りてこられた女性が、初めて見る方で、それも、とても美しい人なのだった。きれいな人だなぁとぼんやり思っていたら、その方の方も、わたしの顔を、なにか、はっとした顔で見つめ返す。ちょっと、不思議に思ったのも束の間、腰を押さえながらワゴン車に乗り込んでゆく母に気をとられていた。ところが、もういちど、その女性に視線を戻すと、彼女、まだ「はっ」とした顔のまま、口元まで押さえているのである。オバケを見てしまった人のする仕草である。いくら寝起きのようなすっぴん顔とはいえ、黄疸でも出ているのかと、ちょっと心配になる。

心細く思いながら見返すと、その美しい人は、わたしに、自分の旧姓を名乗った。名札には今の苗字が記されていたのだ。驚いたのは、その旧姓を聞いた途端、彼女が中学生のときの同級生だったことを、突然、思い出したことだ。わたしには、彼女は、マスコミや芸能界に行きたいタイプの人に思えていたから、こんな場面で会うとは思わなかった。そもそも、明るかった彼女をわたしが覚えているならまだしも、どこかひねこびた後向きな子供だったわたしを、彼女がはっきり覚えていたことが驚きだ。お互い、驚きつつ、仕事もあるのでと、手を振りながら別れる。母も一緒になって普段より大目に手を振っていたのが可笑しかった。彼女にはまた会う機会もあるだろう。

わたしは、いまだに、自分が、「何者か」にならねばならないその途上にいると感じ続けており、しかも、恥かしいことに、その「何者か」になんの心当たりもないままなのだ。まるで、小学生の子供だ。小学生だって、もっと、明確な意思を持つ子もいるというのに。それは、往生際悪く、将来を担保しておきたいという、逃避思考だと分析できる。今朝会った彼女は、この30年余、どんな道のりを歩いていたのだろうか。わたしにしても、彼女にしても、或いは同世代の仲間たちにしても、この歳になれば、既に、「何者か」に「なっている」に違いない。今朝、わたしたちが、成長した「何者か」同士として、再会したように。かつて、自分が心に描こうとしていた図がどんなものだったかに関わらず、わたしはいま、既に「何者か」としてここにいるのだろう。「いつか何者かに」ではなく、「何者か」として、今日を考え、明日に向かい、変わってゆける可能性があるだけなのだろう。「何者か」は完成形ではなく、常に変容するものでしかないのだろう。とすれば、モラトリアムで担保できるものなどなにもない。「何者か」になる途上にいるのではなく、「何者か」として途上にいるのだ。もう、そろそろ、そのくらいのことは、わかっていなければならないなぁと、この突然の再会を通して考える。
by kokoro-usasan | 2011-10-18 11:48 | 日々 | Comments(1)
Commented by めざ at 2011-10-20 02:59 x
一生懸命になにかに取り組んでいる人は「何者か」になろうとしている人もいるだろうけれど、ただそれが好きでやっている人もいると思うのです。
目標を決めてなりたいものになるのではなく、今好きなことをしていて結果として業績が残せたり、業績でなくても社会にとって必要な人になったりするのではないかとも思いました。
極端な例では、興味のある研究だけしててノーベル賞取った人とか、口やかましく近所の子どもに小言を言い続けていたおばさんが実は町内のことに一番くわしいお年寄りになっていたとか。
よろよろと迷路のような筋道をたどっていっても、それはけして無駄ではなく、すべてその人の糧になり、いつか花開くための準備なのではないかと思うのです。
スティーブ・ジョブズも、やりたいことやってた人の最たる人ではないでしょうか。
「やりたいこと」というのも、凡人には明確に見えなくて、うろうろとしていることが多いのですけれども。むずかしいです。


閉じられていないもの


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