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きつねのよめいり

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昨日の夕方。
夏の終わりのような入道雲。

吉田秋生の「きつねのよめいり」を読む。


 

自分が「風変わりなキツネ」であることに自信のない主人公が友達思いのヤマネコに励まされながら、同じキツネの娘に想いを打ち明けにゆく話なのだけれど、ストーリーほど単純には読めない話なのだ。

なぜなら、主人公は、キツネではなくニホンオオカミだったから。
ヤマネコを始め、心ある人だけが、それを知っているが、それを主人公には教えない。もうその山に、ニホンオオカミは主人公だけであることを思い遣ってのことだ。

「風変わりなキツネでいいじゃないか」
と、ヤマネコは、彼をいつも励ます。

そんななか、絶滅種のニホンオオカミを探して山に分け入ったニンゲンは、主人公を見つけて色めきたつ。しかし、早速報告しなければと騒ぐ助手に、学者は言う。

「この目で見たからもう満足したよ。調査は打ち切りだ。いずれにせよ、あの動物はもう、ニ、三年のうちに絶滅するだろう。たかが一匹や二匹じゃ種としてはもうだめだ。今までどおり、幻のままおいといてやろうじゃないか」

わたしはこの学者の言葉が身にしみる。
何故か、とても身にしみる。

ヤマネコもまた、主人公に、最後のニホンオオカミとしての葛藤を負わずに生きてゆけることを望んだのだ。ヤマネコに背中を押され、主人公は、風変わりな自分に好意を持ってくれるキツネ娘のもとへ、満月の夜、駆け出していった。純朴な心のままで。

何故か、とても身にしみる。

幻を思う。
by kokoro-usasan | 2011-07-06 09:19 | | Comments(2)
Commented by isar at 2011-07-06 15:27 x
こないだトラン・アン・ユン監督が、映画でしか出来ない語り方というお話をしてくれたけど、この「きつねのよめいり」もそう、漫画でしか伝えられないものだと思います。
同じ本に入っていた(と思う)ゴキブリの話も好きだったなー。
Commented by kokoro-usasan at 2011-07-06 16:06
ゴキブリの話はこれからです、isarさん。笑。
さっき、ちび毛虫の話を読んだところ。ちび毛虫は女郎蜘蛛に
見守られながら、大水青になり、そして短い一生を終える。
こういう目線で世界を見る心を失っていたなぁと
思いました。いいですよね。この漫画。

トラン・アン・ユン監督がisarさんたちとあんなに気さくに
語り合ってくれるとは意外で、でも、楽しかっただろうなぁと
そのひとときを想像していたんですよ。わたしがそこにいたら
きっと、石仏みたいになってることでしょう。文章はいいたい
放題書くのに、実際には、まるで引っ込み思案なもので。よよよ。

映画。漫画。小説。絵画・・・・・。

翻って、では、自分はどういう方法で
何を伝えてゆけたら本望だと思うのか考えてしまいます。


閉じられていないもの


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