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たまはどこへ。

わが街の駅前商店街は、とてもささやかな規模だ。
それなのに、そこに二軒も、合鍵屋がある。
しかも目と鼻の先に二軒。

そんなにこの小さな街の住人たちは鍵に困っているのだろか。
どうも腑に落ちないけれど、この二軒の合鍵屋のご主人は
それぞれになかなか味のある風貌で、毎日毎日、ひとりで
その砦を守っている。
昔は、煙草屋さんなんてのもあって、だいたい背中を丸めた
おばあちゃんが小さな小さな窓口のむこうに腰かけていて
いつも頭半分くらいだけ見えていたものだ。

わたしが最初に父親に買いにいかされた煙草は、なんだった
かなぁ、「いこい」だったかな、「わかば」だったかなぁ。
ハイライトなんていうのはもっとあとだったよね。
ピースは、同じ社宅に住んでいた「きょうこちゃんのお母さん」が
吸っていたような気がする。近くにゆくと、わたしの父よりも煙草
くさい小母さんだった。ある日、ご亭主のことを「あいつはケダモノ
みたいなやつだから」って、浮気性なのを母にぼやいていた。
わたしには、その小母さんも、どこか獣の匂いがする人に思えた
けれど、ちょっと寂しげで、いつもギラギラしている感じのおじさん
よりずっと好きだった。

今日の夕刻、二つある合鍵屋の、裏通りに面した方の前を通り
すぎようとすると、ご主人が、金物屋の奥さんと立ち話していた。

「ゴンスケがまだ帰ってこないのよ。もう夕方なのに」と金物屋の奥さん。
「ゴンスケも見かけないけど、きょうはタマもいないよ」と鍵屋のおじさん。
「あら、ほんとね。タマもいないわ」
「ふたりして、どこかに遊びに行ってんじゃないの」
「そうね。きっとふたりして遊んでんのね」
「遊んでんだな」

商店街で働く人たちの会話って、なんとなくいい。

商店街に限らず、仕事をしている人たちって、実は仕事のついでに
いつも何か、直接仕事とは関係ない小さなことを観察しているもので、
それが一旦披露されると、とてつもなく盛り上がるときがある。
えてしてどうしようもない話題なんだけど、そういう話題なくして、
仕事ばっかりやってられるかい、ってとこもある。面白い。
by kokoro-usasan | 2011-06-17 21:08 | つぶやき | Comments(0)


閉じられていないもの


by kokoro-usasan

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