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bundle stitch

bundle stitch_e0182926_1017717.jpg曇り空。
昨夜はさびしさが極まって、ひとりで夕飯を食べに出かけた。さびしさが極まったのに「ひとりで」というのも変な話かもしれないけれど、認知症の母と向き合ってひっそりと自宅で食事をとる生活に、言いようのない閉塞感を覚えたのだ。独りで食事をとるのはなんら苦にならない人間なのだが、向き合った人間との気詰まりな食卓のほうが時に耐え難い。何か話し掛けても、聞いているようで通じていない。

姥捨てでもするような気持ちで夕方家を出た。母の食事は用意してあるので自分で食べてくれるだろう。ちょっとおしゃれで居心地のよさそうな店に入り、「オムライス」を頼んだ。自分が作ったのではない、誰かに作ってもらったオムライスが食べたいと思った。わたしは、今夜、「給仕される」側の人間なのだから。椅子にどっぷりと腰かけて、おいしいメニューが並ぶのを待っていればいいのだ。

友人に電話をかけた。「あれ、なんだか賑やかなところからだね」と友人は意外そうに訊ねた。「そうでしょう。今夜はこれからオムライスを食べるんだよ」「オムライスか、それはいいな」「そうだよ、いいでしょう」「お母さんは?」「お母さん?あぁ、お母さんは家ですよ。家でひとりで食べればいいじゃないですか、呆けてるんですから。でも食べるのはちゃんと食べるんです、あのひと」「ねぇ、あなた、ちょっと酔ってない?」「酔ってませんよぅ。遠慮がないって言ってください。遠慮がなくなってるんですね、たぶん、今夜は」

わたしは確かに酔ってはいなかったのだが、出掛けにちょっと薬を飲んでいたのである。昔、母が常用していたらしいデパスが、わたしの引き出しにたくさん仕舞われていて、わたしは、向精神薬というものをあまり好ましく思っていない人間なので、母が呆けてしまったのを機に、封印していた。それをちょっと拝借したのである。デパスを飲んだあと母が妙にゴキゲンになっていたのを見たことがあるからだ。

友人は「足元、ふらついてるんじゃない?」と訊いた。「座ってるから、足元、ありません」「あなたさ、帰り、気をつけて帰るんだよ。歩道を歩くんだよ」「はい」「それから、薬はだめだよ」「はい」あぁ、そうか、こういうとき、人はお酒を飲むのか、とちょっと思った。「ふぁい!かえりまぁぁす、ひっく」なんて言えちゃうのだなと。そういうふうにして、なにか、人生のタイムラグをこしらえているのだな、と。

帰りのバスの中で、妙にウタタネしてしまい、何度も、ここはどのへんかときょろきょろする羽目になったのは、おそらくデパスのせいで、次で降りるとチャイムも鳴らしたのに、眠りこけてあやうく、乗りこすところだった。帰宅すると、母は自室でテレビを見ていた。食べ終わった食器がお盆の上にのっていた。

眠かったのだが、Fちゃんの誕生日がもうすぐなのを思い出した。「プレゼント魔」の彼女からはしょっちゅう色々いただいてしまうので、なにかお返しをと思い、小物入れを用意していたのだけれど、そのままあげないで、何か手を加えてみようと思った。もともと、tetoteさんという手作りの小物を作ってらっしゃるかたから買ったものなのだが、それに、刺繍をつけてみることにした。Fちゃんの名前も小さく縫い付けた。自慢じゃないが、不器用なことにかけては右に出るものなし、というくらいのわたしが刺繍などしては、tetoteさんの作品に申し訳ないのだったけれど、まぁ、いいや。その不ぞろいなステッチをみるごとに「あのおそろしい不器用者」とFちゃんに思い出してもらえることだろう。

さぁ、仕事。きょうから、3月。
by kokoro-usasan | 2011-03-01 11:04 | 手をうごかしてみる | Comments(2)
Commented by めざっち at 2011-03-02 01:43 x
向き不向きはあるけれども、デパスは気持ちが滅入っているときに、ほわ~~んとさせてくれる薬です。
副作用は眠気。多めに飲むと確実に眠くなるので、手術前夜に患者さんにきちんと眠ってもらうためにデパスを飲んでもらう場合があります。これは副作用を逆手にとっての使い方なんですが。
というわけで、デパスでは気合いは入りませんが、気持ちがちょっと軽くなるのと、若干の眠気(人によって出ない人もいるけど)がありますねえ。
一時期、私もデパスの人でして、だいぶ助けてもらいましたが、ある時期に新薬に切り替えたら、目の前の霧が晴れたようにすっきりとして、もやもやとしたつかみどころのないだるさのようなものはデパスの副作用だったとあとから気がついた次第。
副作用があるというと、尻ごみする人も多いのですが、新薬に比べて古くからあり、多くの人が飲んできた薬なので、それなりに安全であるともいえます。
薬で一番気をつけなくてはいけないのは新薬。メーカーも情報開示しているけれども、誰からも報告されない(飲んでいる人が少ないため)重大な副作用がある可能性は捨てきれないので。
Commented by kokoro-usasan at 2011-03-02 10:55
めざさん、コメントどうもありがとうございます。さすが専門家じゃ。めざさん自体が、わたしの「常備薬」というか「家庭の医学」かも。わたしは、家族は近代医学にかなりお世話になっているというのに、自分は原始人みたいな人間で、年に1回の健康診断さえ、なぜ、血を抜かれなければならないのか、とか、なぜバリウムを飲まなければならないのか、とか、毎年ぶぅぶぅ愚痴るので、みんなにばかにされています。そのくせ、骨折が多く、そのときばかりは、子羊のように、即病院です。(当然ですが) 薬とかお酒などで、気持ちを一旦担保することが有効な場合もあるのだと思うのですが、わたしの場合は、きりきりと弱りきったその部分にあえて降りていきたいというあまのじゃくな意地のようなものがあるようで、ちょっとマゾかもしれません。ふふ。

話はちょっとそれますが、子宮けい癌の予防薬なども、まだ副作用の問題が実はきちんとクリアできていないそうですね。これから母親になるかたたちに直接関係することですから、慎重にことをすすめてほしいなと思っています。


閉じられていないもの


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